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東京地方裁判所 昭和55年(モ)6483号 判決 1980年10月24日

申立人 伊東英光

右訴訟代理人弁護士 満園武尚

同 満園勝美

被申立人 伊藤泰喜

右訴訟代理人弁護士 秦重徳

主文

申立人の本件申立はこれを却下する。

訴訟費用は、申立人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申立人

1  被申立人を債権者、申立人を債務者とする当裁判所昭和五一年(ヨ)第八〇六七号不動産仮差押申請事件について、同裁判所が昭和五一年一二月六日になした仮差押決定は、これを取り消す。

2  訴訟費用は被申立人の負担とする。

3  この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。

二  被申立人

主文同旨

第二当事者の主張

一  申立の理由

1  東京地方裁判所は、被申立人債権者、申立人債務者間の同裁判所昭和五一年(ヨ)第八〇六七号不動産仮差押申請事件において、昭和五一年一二月六日、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という)につき仮差押決定(以下「本件仮差押決定」という)をなした。

2  申立人は、昭和五三年一月二五日同裁判所に起訴命令の申立をしたところ、同裁判所は昭和五三年一月三〇日「債権者(被申立人)は、この決定送達の日から一四日内に、管轄裁判所に本案訴訟を提起しなければならない。」旨の決定を発し、右決定は昭和五三年一月三一日に被申立人に送達された。

3  しかるに、被申立人は、右起訴期間を徒過して所在に至るも本案訴訟を提起しない。よって、申立人は、本件仮差押決定の取消を求めるため本件申立に及んだ。

二  申立の理由に対する認否

申立の理由はすべて否認する。

三  被申立人の主張

1  被申立人は、昭和五三年二月一三日、申立人を被告として、本件不動産を含む合計一二筆の土地(以下「本件係争土地」という)の所有権移転登記手続請求(なお、これは後に共有持分移転登記手続請求等に変更された)および不法行為に基づく損害賠償請求の訴を東京地方裁判所に提起し、同事件は同裁判所昭和五三年(ワ)第一二五九号事件として係属している。

右訴訟は、本件仮差押事件の被保全権利(合計金四三九二万九二四〇円の貸金元本債権)と請求の基礎を同一にするものであるから、これをもって本案訴訟の提起があったものというべきである。

2  のみならず、被申立人は、右訴訟において、昭和五五年七月一六日、本件仮差押事件の被保全権利を含む合計金一億三、五六七万八、二三六円の貸金請求を予備的請求として追加した。(なお、右貸金請求額はその後一億二、八三一万一、六八二円に訂正された)。

したがって、右予備的請求によっても本案訴訟の提起があったとみるべきである。

四  申立人の反論

1  被申立人が本件仮差押事件の本案であると主張する訴訟は、本件不動産の所有権移転登記の請求であって、本件不動産の所有権が債権者たる被申立人の所有に属することを前提とするのに対し、本件仮差押事件においては、同一目的物について所有権が債務者たる申立人に属することを前提とするものである。したがって、被申立人主張の右訴訟は、本件仮差押事件の本案とはなり得ない。

2  予備的請求は、保全処分の本案訴訟とはならない。

第三疎明関係《省略》

理由

申立の理由1、2の事実は記録上明らかであるところ、被申立人は昭和五三年二月一三日に本案訴訟を提起した旨主張し、申立人は被申立人主張の訴訟が本案適格を有しないとしてこれを争うので以下この点につき判断する。

被申立人が、昭和五三年二月一三日、申立人を被告として本件不動産を含む本件係争土地の所有権移転登記手続等を求める訴を当裁判所に提起したこと、その後被申立人は右訴訟において共有持分移転登記手続等を求める訴に変更し、さらにその主張の日に、その主張の内容の予備的請求を追加したこと、以上の事実は申立人において明らかに争わないところである。

ところで、記録によれば本件仮差押事件の被保全権利は、被申立人が昭和四三年一一月一八日から同四五年七月三一日までの間申立人に貸し付けた合計金四、三九二万九、二四〇円の貸金元本債権であることが認められる。他方、《証拠省略》を総合すると、被申立人が提起した訴訟において主張するところは、要するに、被申立人が、昭和四三年一一月一七日頃から申立人らと共に始めた宅地造成事業において、右事業の遂行に要する費用として、被保全権利である前記貸金元本債権相当額の金四、三九二万九二四〇円を含む金一億三、五六七万八、二三六円を出捐したことにつき、何らかの法的手段によりその出捐に対する対価的給付の確保をはかるべく、その法的手段として右事業の主体についての法律構成(すなわち、被申立人あるいは申立人の個人事業とするのか、または申立人、被申立人らの出資にかかる組合事業であると主張するのか、ということ)に対応して、前記認定のとおりの各請求をしているものであることが一応認められる。

そうすると、本件仮差押事件の被保全権利である貸金元本債権は、被申立人の前記出捐分の一部を回収するための法的手段として、被申立人主張の訴訟における主位的請求(すなわち、共有持分移転登記手続請求等)との間には、前記宅地造成事業の主体についての法律構成を異にするのみで、被申立人が右訴訟において追行する実質的目的は被保全権利におけるそれと同一であるというべく、従って、この意味において、右訴訟は本件仮差押事件の被保全権利と請求の基礎を同一にするものであるということができる。のみならず、被申立人が右訴訟において追加した予備的請求は、右被保全権利を含む貸金請求自体を訴訟物とするものであるから、これによっても優に本件仮差押事件に対する右訴訟の本案適格性を肯定することができる。

以上の次第であるから、申立人の本件申立は理由がないのでこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村雅司)

<以下省略>

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